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Home海運の未来 2023-04-15
スイス、チューリヒの新聞NZZ新チューリヒ新聞のサイトに2021年08月13日に掲載された Katja Maria Engel の記事Emissionsfrei unterwegs auf hoher See: Das soll mit Wind, Wasserstoff und Ammoniak klappen を要約したものです。
海運の未来
この5月末、近くを航行するCopenhagenのデッキに立っている巨大な白い筒にぎょっとしたのは東海の海岸に居た休暇客だけではなく、他の船の船長の驚きも小さくなかった。高さ30mのこの筒は Flettner-Rotorと呼ばれ、Magnus効果と呼ばれる筒の左右の気流の違いを利用して推進力を得る装置で、二酸化炭素の排出量を5%減らす効果があるという。しかし、主動力源はディーゼルだ。海運会社Scandlinesは2020年、この形のフェリーを2艘、進水させている。造船海運技術組合の運営者Ralf Sören Marquardtは忘れられていたこの技術が復活したことを喜び、多くのタイプの船に利用できると説明する。タンカーなどの長距離輸送船はデッキに十分なスペースがあり、Maersk Pelicanではこの技術を利用して燃料を8%節約している。輸送船SC Connectorは20%の節約に成功し、二酸化炭素排出量は25%減ったという。
いわゆるBig 3、コンテナー船、輸送船、タンカーは世界の二酸化炭素排出量のほぼ3%の原因となっており、ここで排出を減らすことが出来れば、効果は小さくない。ETH Zürich連邦工科大学チューリヒの経営技術経済部のPetrissa Eckleのチームは無排出の海運の実現を探っているが、今後5年から10年の間に主役になるエネルギー源だけではなく、国際的規模の海運に適用できる設計を作ろうとしている。
LNG液化ガスは環境保護の救世主となると期待されてきたが、それに含まれるメタンが二酸化炭素を排出することが分かった。しかし、LNGが与える環境負荷はディーゼルに比べて小さくないというドイツの自然保護団体Nabuなどの研究が出されており、その使用への警告も出るようになっている。メタンは二酸化炭素よりも強い温室効果があり、特にFracking水圧破砕法によるメタン採掘では、多くのガスが大気中に放出される。また、零下162度のメタンガスタンクからは4%程度のメタンが漏出することが分かっている。2050年までに大型船の40%以上が液化ガスを燃料とすることになると、誤った未来への道を進むことになるとNabuの専門家Sönke Diesenerは警告する。船の寿命は50年ほどであり、排出ゼロの船がそのはるか前に使われるようになることが必要だ。
船の動力源として最も期待されるのは水素とアンモニアで、既に電気船を運航しているノルウェーの海運会社Norledは水素に力を入れている。水素と燃料電池への改造は比較的、簡単であり、Norledは世界初の水素と燃料電池を動力とする船MF Hydraの建造を進めており、2022年には完成する予定だ。2030年にはすべての船が水素と燃料電池による動力で運行される計画だ。その時点で水素は自然エネルギーを使って製造されることになっており、スイスのETH Zürichとドイツの航空宇宙センターもその開発を進めている。EUもその研究計画Horizon 2020で、同様の開発に1千万ユーロを投資する。漏洩があっても被害が出ない水素による燃料電池はフェリーなどには近未来だが、零下253の液体水素は厳密に密閉されたタンクを必要とするため、場所を取り、大洋横断に十分な量の水素を貯蔵することは不可能だ。
このような理由から、アンモニアに期待が集まっている。アンモニアの75%は水素だが、その運送は水素よりもはるかに問題が少ない。たしかにそのガスは有毒だが、漏出防止と燃焼の際に放出されるいわゆる笑気ガス、亜酸化窒素への対策が整えば、温室効果ガスの排出削減には大きな有効性がある。ドイツでは多くの連合体がCampfireの名の下に、経済的にも実現可能なアンモニア環境システムの研究と開発に力を集めている。プラズマ研究を行っているLeibniz-Institutもこの計画に協力しており、スポーツヨットから湖交通、クルーズ船までの無排出動力の研究を進めている。2022年にはスポーツヨット、2026年にはフェリーがドックを離れる予定で、クルーズ船は2030年が見込まれている。Campfireのパートナーのすべてがアンモニア燃料電池の研究開発をしている訳ではなく、次の段階としてアンモニアを燃焼させて動力を得るエンジンの開発が行われる。その際に放出される酸化窒素と亜酸化窒素を最小化する研究が行われている。その次の段階で、ガスの放出が無いアンモニア燃料電池の開発に移る。
既にアンモニア燃料電池を備えた船一隻を所有しているノルウェーの海運会社Eidesvikの計画はさらに具体的で、ドイツのMainzにある微細技術、微細システムの研究所Fraunhofer-Institutがプロトタイプの作成を進めている補給船Viking Energyが2023年に完成する予定だが、非常時に備えて液化ガスのタンクも組み込まれる。
これまでのところ、具体的な計画が進んでいるのはフェリーと補給船だけだが、タンカーや大洋航海船にも適用されることが望まれる。問題はそれらの船が環境合意の対象外であることだ。EUは排出量売買の法整備を検討しており、この夏中にもその内容が発表される予定だ。しかし、排出証明の価格はまだ非常に低いと見られ、排出の少ない動力への移行への動機としては弱い。ベルリンの環境研究所のNora Wissnerは海運における排出量取引についての論文にも携わったが、この法整備は無意味なことではないと話す。この売買によって集められた金は海運会社への助成金として使われ、代替え動力の高い価格にも拘わらず移行する動機づけにされるべきだと主張する。
このまま、何も対策がうたれない場合、海運による排出量は2050年には90から130%上昇すると国際海運機関は発表している。ドイツ環境研究所のMartin Camesは環境への負荷が小さい海上交通は近い将来、可能になると考え、最近20年、大きな動きが出てきていると話すが、あまり実験ばかりしていると時間が足りなくなると警告する。
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