不都合な声を黙らせる方法は限りなくある。最も残酷な方法は殺人だ。権力者が隠したい事実を公表したために毎年世界で10人以上のジャーナリスト、メディア関係者、ブロガーが殺されている。現時点で300人を超すジャーナリストが身柄を拘束されている。これらの人たちは特に強権政治が支配する国で苦しんでいる。中国、イラン、シリア、北朝鮮が言論の自由の最悪の敵で、トルコがそれを追っている。
そのような国で事実を伝えようと努力している人は権力者側からの厳しい反応が予想されるだけに強い勇気が必要だ。それに比べると、西側民主主義国ではのどかなものだといえる。そこで権力におびえるジャーナリストは世界水準からみると意気地なしとされる。事実公表への情熱は明日のパンを失うことへの恐れで萎える。
それでも、この緯度での報道の自由への危険は過小評価することはできない。不安ないくつかの傾向がある。ドイツでは2015年以来、ジャーナリストへの攻撃が頻発している。抗議行動はもはや、言葉だけのものではなく、物理的な攻撃の危険もある。European Center for Press & Media Freedomには、特にSachsenでの多数の事例が報告されており、ハンブルクでもG20サミットへの抗議デモで参加者がレポーターに暴力をふるう事件があった。
政治的、メディア社会的状況がそのような攻撃を生み出しやすい気候を醸している。社会メディアでは言葉による殴り合いが演じられている。嘘報道はあらゆるところで致死的打撃を与えている。有力政治家さえもそのような場面に登場している。口論が暴力に発展して、自由な発言が妨げられる危険は増大している。
Donald Trumpは2年前、多くのマスメディアを人民の敵だと宣言した。これを馬鹿な発言だと無視することもできるが、当時は、この発言に対する怒りは大統領の分かりやすい政治手法として利用されることとなった。しかし、彼の侮辱的な戦術はトーンを上げる度に支持者を喜ばせた。彼らは国家元首が彼らと同じように話すことで正当化されたと感じる。最近では、Trumpの発言を追っているレポーターがある集会で怒鳴り倒される事件もあった。
Trumpのメディアに対する攻撃や無差別な批判は、いわゆるフェイクニュースを広め、それが更に被害を広げることになる。最有力な民主国の首長が都合の悪いメディアを批判することで彼は世界の強権主義者や独裁者に口実を提供することになっている。それだけではなく、ヨーロッパにも追従者がいる。辞任したスロヴァキアのFico首相はジャーナリストを「汚れた反スロヴァキア売春者」「白痴」「ハイエナ」と罵った。チェコの首相Zemanは模造カラシニコフ銃をジャーナリストに対して振り上げて見せた。
政界の危機は民主主義者の報道の自由への態度も危うくしている。財務的に弱体化した編集局は簡単に圧力の犠牲者になる。生き残りのための戦いがさらに、ジャーナリズムの信頼性を高めるべき批判的な自己分析を邪魔なものとして意識させることになる。